【小説】「夜の国のクーパー/伊坂幸太郎」を読んでみての感想です

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「戦争」をテーマにした、大人も子供も引き込むようなファンタジー作品でした。”世界の秘密のおはなし”っていう帯のコピーの部分、なんだかドキドキしますよね。

 

伊坂さん作品好きの人ならば分かるかな?と思うんですが、伊坂さんの作品を読んでいると、「この作品はどこまでが前置きで、どこからが種明かしなのかな…?目の前で展開されているこのストーリーは、どこまで入り込んで良いものなのかな…?どこに自分には見えない世界が隠されているのかな…?」という感じで、ついつい、作品内での”現実と現実とファンタジーの境界線”を探しつつ探りつつ見てしまう癖がついてしまうんですよね。

この作品に関しても例に漏れず僕はそんなスタンスで読み進んでいたのですが、最終的な全体的の感想としては、「……また、伊坂さんにやられた!」の一言でございました。

最初は思いっきりファンタジーな出だしなのだけれども途中でファンタジーよりも統治と政治のお話になっていき、しかし最終的にはやっぱりファンタジーだった!っていう、なんとも不思議な展開の作品。(ラスト以外にはそこまで派手な展開はないので、読み進めている途中、もしかするとちょっとダラけてしまうかも)

 

以下、感想です。

この作品を読んで(勝手に)僕が受け取った伊坂さんからのメッセージ

ミクロとマクロの視点の違い

伊坂さんの作品を読んでいると、最終的に”今まで目の前で大きく見えていたモノは実は巨大な世界の中の一つの歯車でした!”というような展開となる事が割と少なくないのですが、この作品もまたそういったミクロとマクロの視野の切り替えというか描き方が非常に巧妙かつおもしろく、また、読了後いろいろと考えさせられるような内容でございました。(「モダンタイムズ」みたいな展開は、大好きです。個人的に)

壁の中の国の人々は自分たちの力でしっかりと統治を行って生活していると思っていたけれども、実は100年前の戦争に敗北した日からずっと鉄国に支配されており、しかもそれを知っていたのは国王の「冠人(カント)だけ(あと、片眼兵長もか)。ラストのネタバレシーンでは、前半の物語ではあれだけ頼り甲斐があって大きな存在感を纏っていた国王が、ラストでは何の威厳も尊厳もなく、ただただ自らの保身だけを考える悲しい王へと変貌してゆく様の描写が、本当に見事でしたなぁ。

 

しかーし。

ちょっと視点を変えてみると、例え自分自身の保身のためだとしても、それだけの長期間ずっと何事もなく他の住人には一切事実を知られる事なく、更には、町の人々から尊敬の念を向けられる程に威厳を保ちながら町を治め続ける事ができた王は、それだけでも凄い才能の持ち主だったのかもしれないなぁと、個人的には思ったりもしますね。良い意味での、凄まじい人たらし。壁の中の国の人々は何も知らずとも、みんな冠人の事が大好きだった訳ですもんね。

結果的に大勢の人の上に立つ人っていうのは案外、こういった究極の人たらし(自分の保身、下の者の保身両方を考える)の保身者が多かったりするような気がします。それが良い事なのか悪い事なのか?は、また別の話として、ね。

人を暗に動かすには、外に”虚像の”敵を作ることことも効果的

この作品の一つのキモであるクーパーの物語のネタバレの部分は、なるほどな!と考えさせられましたね〜。あれだけあれだけ引っ張って引っ張って引っ張った末の「クーパーという樹の怪物は、実はいませんでした。てへ。」という、ファンタジー作品としてはなかなかに衝撃的な展開…。でもそれはただの夢オチなんかじゃなく、クーパーは実はいなかったけれどもそういった物語を長年言い伝えていたのにはしっかりとした理由があって、更にはその理由というのが超現実的な理由だった、という部分が、ファンタジーをファンタジーのままで終わらせない、ザ・伊坂さんワールドらしさなのかな?とも感じました。

こういった「人を動かす為に、外にいる幻の敵をイメージさせる」という考え方は、日常のいろいろな場面での参考になりそうな考え方ですよね。言葉のアヤとも言えるのかもだけれども。上手く虚像の敵を使ってチームや組織の士気を高めたり、ちょっとしたしつけ方法の一つとして活かしてみたり、自分自身へのたきつけとしてイメージしみたり、ね。考え方によっては「本当の事を言わない」と見なされてちょっとブラックなイメージもあるけれども、誰もが嫌がるような仕事を敢えてしなくてはいけない場面なんかでは、けっこう大切なのかもしれない。作中では、「君たちは鉄国に連れて行かれて労働させられるんだよ」ってストレートに言うのではなく、「街の未来を守る為にクーパーと闘う戦士として選ばれたんだ!」、という表現のアレね。こういった表現だと送り出す側としても誇らしいし、送られる側としても選ばれた事それ自体が、自分の存在の誇りとなるなるのかな?と。これに関しては人によって賛否両論ななのかなぁとも思いますが、良い意味で使うには個人的には賛成だったりします。

よくある、「何をしているの?」って聞かれた時に、「レンガを積んでいます」というか、「世の中をより良い世界にしています」っていうかのどちらかという、アレですね。

常識を疑え!

”鼠や猫は、喋らない生き物”という、先入観からの思い込み。していませんか?

もしかすると、僕もしているのかもしれません。(してたらいいね)

まとめ

派手さはないけれども読みながらもいろいろと考えさせられる、恒例の伊坂さん流のファンタジー作品でした。戦争の恐ろしさというよりも「戦争に関わる人々のずる賢さ」がよく伝わって来るような、そんな印象でしたね。

あと、進撃の巨人を読んだ事がある人にとっては”壁の中の国”という設定が進撃の巨人のそれっぽくて、世界観がイメージしやすかった感じ。主人公である「私」も、小人たちから見たら巨人であるという設定でしたしね。クーパーのネタバレ部分も、進撃の巨人のそれにちょっと被りそうな気がしないでもない。

あと、読みながらなんとなく思ったのですが。伊坂さん、絶対に猫、大好きですよね…トムくんの描写がめちゃくちゃ細かいですし、実際に猫あるあるがあり過ぎて、読んでいて思わずニヤッとしてしまう場面が何度もありました。

猫好きさんにもオススメかも。